「俺は行くぞ」

 構わず彼女の横を通り過ぎた。

「ティアニス様は我がままを仰いません」

 引き止めるように言葉を投げ掛けられ、俺は丘へ向いた足を戻す。

「我がままに見えても表に出すのは、いつも二番目か三番目なのです」

「二番目か三番目?」

「一番の我がままは──本当の願いは、いつもご自分の胸に秘めてしまわれるのです」

 振り向きながら答える彼女の顔は、普段の鉄仮面とは違ってどこか物憂げに感じた。といっても、星の瞬きほどのささやかな違いだが。

「本当の……願い?」

「解りません。ですが、胸に秘めているということは解るのです。きっと私では、それを引き出すことは叶わないでしょう。
 ティアニス様の御心を知るには“主従”では駄目なのです」

「俺も“主従”だが」

 だから俺が行っても無駄と言うのかと思ったが

「貴方は違いますから」

 意外な返答だった。いったい何が『違う』のか。

「不良騎士だからか?」