三十分後。

 宿内の十字になった廊下で、俺はちょうど対角線上を走ってきたレガートに呼び掛けた。

「いたか!?」

 首を左右に振る。

「まさかとは思うけど、外に出たんじゃ……」

「こんな夜中に姫様一人でどこ行くっていうんだよ!」

 部屋に戻って安静にしろと言っても聞かず、十字の中心で待機していたアルスが叫んだ。

 俺たちがこの宿に訪れてから誰も出入りがなかったのは受付に確認済みだ。王女の寝室も調べたが、荒らされたり外に出たような形跡はない。当然、入浴中というわけでもなかった。

「少し気になったんだが……」

 と、ベンが廊下の奥を指し示す。閉じた窓が整然と並ぶ中、一つ、不自然に開いていた。

 皆が神妙に顔を見合わせる。

 何者かにさらわれたのか、自ら動いたのか、どちらにせよ外に出た可能性は否定できなくなった。

「どうする?」

 レガートが俺に指示を仰ぐ。

「負傷者は待機だ。一番隊はもう一度宿の中を、残りで町を捜索する!」

「リュート隊長、オレも……!」

「アルスは休んでいろ」
「ベン。アルスを頼むよ」

 動き出しそうなアルスを制し、俺とレガートは隊員を引き連れて外に出た。
 灯りが消えた町並みは、山道(さんどう)の森と同じく不気味な深淵の闇に包まれていた。

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