(……え?)

 鼓動が昂ぶる。

(安楽……“死”って?)

 頭がくらくらする。

(だって、アルスは……まだ生きてるよ)

 手がふるえる。

(苦しそうに、息をして……血を流して……)

 ザワザワと不気味な音を立てて血の波が引いていく。指先が冷たい。感覚はあるのに、自分のものではないような感じ。

(ほんとうに、ほんとうに……それしか、方法がないの?)

 必死に考えようとしても思考がうまく働かない。

「馬鹿言うな!! お前、私たちにアルスを……っ!」

 ベンは金茶の髪をふり乱して抗議するも、途中で押し黙ってしまった。後につづく言葉をアルスの前で口にしてはいけない。聞かせてはいけない。痛々しいほどの想いがうつむいた苦渋の表情から見てとれた。

 レガートもなにも言えず、ただただ悔しそうに氷青色の眼を伏せていた。あきらめたくはない。でも、どうしようもない。そんな感じだった。

 空気が肌に突き刺さる。

 ……そんな凍てついた静寂を、破ったのは。

「アルス。すまない」

 周りを警戒していた隊長がぬき身の剣を持ったままアルスのそばまで近づいて、一言、つぶやいた。

 まるで死刑宣告。

 いやだ、お願い、やめて。

 リュートは剣を両手でにぎり直し、切っ先を下にしてかまえた。