「気をつけろっ、まだ何かいる!!」

 リュートの言葉の意味が今さら頭に入ってきても、もう遅い。その『何か』は闇をまといながら現れた。

 私を見下ろす、金色の眼。

(ああ、これが……)

 特別恐ろしい形相というわけではないけれど、その金色は私に狙いを定めていた。





「……っ!!」



 ────……


 鈍く、きもちの悪い音がした。


 肉をえぐりながら貫く音。
 濡れた体に、べしゃりと生温かい液体が飛び散る音。

 遠くでだれかの絹を裂くような悲鳴も聞こえた、かも、しれない……。

 どうして……

 どうしてまだ魔族がいたのか、とか
 どうして私が狙われたのか、とか
 どうして魔族は神出鬼没なんだ、とか

 いろんな『どうして』が一瞬にして頭の中を駆けめぐったけど。

 目の前におかれた状況が、いちばん、どうしてなのかわからなかった。

 逃げるヒマなんかなかった。剣を持つことも、身がまえることも、声をあげることもできなかった。

 そんな一瞬で……