大きな水音とともに浮遊感が消えた。
 急にもどってきた自分の重量に耐えきれず地面に倒れこむ。
 シレネが駆けよって抱きかかえるように背中をさすってくれた。

「本当に無茶をなさる。ですが、エリーゼ姫のおかげで最後の魔族を特定できました」

 涼やかな声が聞こえて視線を送ると、ぼやけた銀色のシルエットが浮かぶ。

「僕たちの勝利ですよ」

 おだやかな勝利宣言に隊員たちが喜びの声をあげた。

(助かったんだ……)

 だけど。

 どうしてだろう。体が異様に重い。

 水をふくんだ衣服のせい、だけではない。体は解き放たれても、心はまだ水の檻に閉じこめられているような感覚だった。

 絶望と、無力感。

 隊員たちが武器を収めて負傷者の手当てを始めても、私はその場にへたりこんだままうつむいていた。
 動けずにいる私を気遣って、そのままでは風邪をひくから、とシレネが荷馬車にタオルと毛布を取りに行く。

 そのとき、遠くから放たれた低い声。

 リュートがもどってきたんだ。
 気づいて顔を上げた──ら、驚くべきものを見た。