Lute side
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(レガートが離脱したか)

 遠ざかる銀色の気配を背にして、俺は絶え間なく降り注ぐ血の雨を駆け抜ける。後ろを振り返る暇などない。今は副隊長の判断を信じて前に進むのみ。

 刃を返すたびに斬りつける肉厚な感触と(あぶら)の臭い。断末魔と交差して新たなる獰猛(どうもう)な牙が迫り来る。

 喰うか、喰われるか。
 斬るか、斬られるか。
 殺すか、殺されるか。

 瞬く刹那に、生死を分かつ選択がいくつあったか数え切れない。

 中枢の結界から離れれば離れるほど、光の魔法は薄れて新月の闇は深淵さを増していく。けれども、闇の更に深い場所で魔物を操っている源泉があるに違いない。

 己の勘を頼りに無数の死をかいくぐった。