「そう、新しい護衛騎士が……」

「その護衛騎士、すっごく強いのよ。で、すっごい美形なの!」

 力説すると、お母様は花のように笑った。

「まあ、ティアったら。その方のお名前はなんていうの?」

「リュートよ!」

「リュート……。姓は……?」

「えっと、『グレイ』かな。リュート=グレイ」

「リュート……グレイ……」

 吐息のようにひそやかに反すうする。耳になじむ優しい響き。

「ステキな名前よね! 騎士にしてはちょっと優しすぎるけど。あのきれいな顔には似あってるかも」

「ええ、そうね……。そんなにきれいな方なら一度お会いしてみたいわ」

「今夜、式典があるけど……」

「式典は……無理だけれど。いずれ機会があれば」

 形のいい眉をわずかによせて申しわけなさそうにほほ笑むお母様。
 この二年間自室にこもりきりで身内以外とはほとんどしゃべっていない。大勢の来客がいるような場に出ていけるはずがなかった。

「お母様が望まれるなら、ヒマを見てお部屋につれてくるわ」

「その方には騎士というお役目があるのだから無理を言ってはダメよ、ティア」

 口調はいつも優しく、まるで小さな子に言い聞かせるよう。
 その直後、私と同じサファイアブルーの瞳にかげりが差した。