◇ ◇ ◇

「ティ、ティアニス姫様っ、申し訳ありません!」

 愛用の槍を放り投げて、赤い髪の青年はその両手を大聖堂の床についた。

「いいのよ。私から仕掛けたのだから気にしないで」

「で、ですが──」

「すごいのね……騎士って」

「え?」

 神官長に治癒魔法をかけてもらった腕を見つめる。軽いケガだったから痕も痛みもほとんど残っていないけれど、傷ついた瞬間の記憶はこの脳裏にしっかりと刻まれた。

 小さいころからムチャをして走りまわることが好きだったから、打ち身もすり傷も切り傷もねんざもケガというケガはいっぱいした。

『痛み』には強いつもりだった。

 だけど(やいば)で斬りつけられるというのは、生まれて初めて味わう痛みだった。
 いや、痛いを通り越して……

 熱かった。

 たった数cm刻まれただけで。
 傷口から燃えるように、ジンジンと。
 あまりの熱さに呼吸もままならないほど。

「あなたたちは、こんな痛みをともなう危険の中で、私を護ってくれるのね」

「はい! このアルス=ノーヴァ。命を賭けて姫様をお護りすることを誓います!」

「そんなこと誓わないで」

 感動的な騎士の誓いをあっさり全否定。
 アルスは肩すかしを喰らったように「へ?」と鼻からマヌケた音を出した。