「視察に出すなんて、大公爵はよく許したと思うよ。いろいろ事情があるんだろうけど」

 ティアニス王女と幼馴染のレガートでさえ、エリーゼ姫と顔を合わせるのは今日が初めてだった。噂を耳にする機会もなかった下流貴族や平民は、姫の存在すら知らない者が多いという。

 視察は、その者たちにも知られて中傷の的にされる危険がある。

 俺たちに障碍を明かしたのは、単に身を護るだけでなく、そういうものからも護ってほしいという意味が込められていたのかもしれない。

 手綱(たづな)を握り締めて愛馬にまたがった。目線がいつもより高くなり、ぐっと空が近づく。

 旅立ちを祝福するような、快晴。

 だが──


 吹きつける冷めた風は、どこか落ち着きなくざわめいていた。


********************