Lute side
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 延々と続くように思われたジャジャ馬姫との修行は、あの日を(さかい)に終わりを告げた。
 王女の親衛隊といえども普段は各々(おのおの)の日課があるから、この広い王宮で顔を合わせる機会など今後はめったにないだろう。

──と思っていたのだが。

 機会はすぐに訪れた。

 空姫親衛隊に召集命令(しょうしゅうめいれい)が下された。

「みんな、すでに聞いていると思うけれど、公務を行っていた私の祖父ヴィクトルが体調不良によりしばらく静養することになりました。
 その間、私が女王代理として公務を行います!」

 仰々しい玉座がある広間の中央で、空色の姫が堂々と宣言する。

 両脇に控えるのは、王国の頭脳(ブレーン)と名高い国王補佐のシュヴァルツ大公と、医学と魔法学の天才と呼ばれるラーファルト神官長。

 そんな重鎮に囲まれても動じず女王の貫録さながらの存在感を放つ彼女は、やはり人の上に立つ器なのだと思い知らされた。

 俺は彼女から少し離れた場所でひざまずいている。
 それが彼女と俺の距離なのだ。

 ついこの間まで毎日顔を合わせて稽古をつけていたことが遠い夢の出来事に思えてきた。