God aspect
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 宵は過ぎ、無限に広がる濃藍(こいあい)の天幕の下で幾多の生命(いのち)が眠りにつくころ。
 闇に包まれても女神の力は衰えることなく魔を(こば)み、聖なる森にやすらぎという息吹を注ぎこんでいる。

 この地に息づくのは、まどろむ小動物と時を刻むように鳴くフクロウと……

 二つの影。

「へぇ。君も視察に行くのか」

 大きな影がよりそう小さな影に問いかける。

「ええ、おじいさまにワガママをとおしたわ」

 身なりのいい青年と少女が、森の深部にある川のほとりで語らっていた。

「楽しみだね」

 草の上に並んで座っている少女のゆるくうねった髪をなでる。
 闇に溶けこみ星明かりに冴える、不思議な藍。

「そうね。彼に、もう一度会いたいと思ってたし」

「彼?」

 青年が綺麗な眉をゆがませる。優しげな(おもて)に疑念とほんのわずかな不快感が浮かび上がっていた。
 答えを待っても、白い顔にある紅いつぼみは固く開かない。 

「誰のこと?」

 少女の顔を覗きこんでもう一度問うと、人差し指をそえたつぼみが妖しく咲いた。

「ひみつよ……」

 甘い蜜が香る(つや)やかな“美笑(びしょう)”。

「君の秘密主義にも困ったものだ。まさか、俺よりその男に興味が湧いたの?」

「そうよ。って言ったら、あなたはどうする?」

「その男、殺しちゃおうかな」

「まあ、こわい」

 と言っても言葉ほど怖がってはいない。からかいを含んだ響きだった。

「本気だよ。俺は」

「なにに?」