「シレネ、ありがとう! 助かった~」

「ダリウス様のお説教は長いですから。今止めないと本当に式典に差し支えてしまいますわ。今回は、私にも責任の一端はありますし」

「シレネも共犯者だもんね」

 彼女は、おちゃらけたフェンネルとちがって、どちらかというと私のお遊びをたしなめるほうの人間だ。それがどういう風の吹きまわしか、今回の件には協力してくれたわけなのだけど。

 すると、フェンネルと同じ藍色の瞳にキリリとした眉をよせる。

「共犯者だなんて……兄の口車に乗せられたんですわ。私は、新しい護衛騎士殿を謁見の間にご案内しただけです。
 ですが、これっきりにしてくださいませ。ダリウス様の耳に入れば、私までお説教されてしまいますわ」

「あはは」

「ダリウス様、まだ怒りの炎(おとろ)えぬ様子でしたから、きっと兄の(ところ)へ行かれたはずですわ。残りの火の粉は兄にかぶって戴きましょう」

 いつも鉄仮面のように表情を崩さないシレネが、口もとだけ腹黒い笑みを浮かべた。マジメなわりにけっこういい性格をしている。さすがフェンネルの妹。

「さあ、少し早いですけど、お召し替えお手伝い致しますわ」

 その前に……と、手を挙げる。

「お母様とお話したいの。いいかしら?」

「リディア女王陛下(じょおうへいか)は本日もお部屋にいらっしゃいます。今朝、(うかが)ったら御気分も悪くないようでしたので、少しだけなら大丈夫でしょう」

「ホント!? じゃあ、行ってくる!」

「本当に少しだけですよ」

 念を押すシレネに、ひらひらと手をふって部屋を出た。