Tirnis side
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 新しくなにかを始めるときはたくさんの変化が巻き起こったりするものだ。
 季節の変わり目に吹き(すさ)ぶ、春の嵐みたいに。

 おそらくこの出来事もその一つなんだと思う。

「な、何を言ってるんだ!?」

 いつも冷静な大叔父様がめずらしく、さらさらした銀の髪をふり乱しながら叫んだ。

 ここは離宮シュヴァルツ邸の談話室。
 週末にひかえた視察のうちあわせで訪れたのだけれど、予期せぬ小さな嵐に見舞われて、うちあわせどころではなくなっている。

 その嵐を起こした張本人は、談話室の扉の前でまっこうから大叔父様とにらみあっていた。

「ですから、わたくしも視察についていくともうしあげているのです」

「エリーゼ、これは遊びじゃないのだよ」

「まあ、おじいさま。わたくしを子どもだと思ってばかにしていらっしゃるの? 視察の意味くらいわかってますわ」

 腰に手をあて小さな胸をつんとはって白い顔に咲くバラのくちびるを突きだした。ナマイキに見える仕草も、等身大のお人形がすればたちまち愛くるしくなる。かわいい孫娘の反抗に大叔父様は手を焼くばかりだ。

 私はとりあえず、ソファに腰かけたまま冷めかけた紅茶をときどき口にふくみながら嵐の行方を見守るしかない。

 つまりは、のんびり高見の見物。