(かたき)討ちなんて諦めろ」

 一番聞きたくなかった言葉。
 たった一言で、私の中の黒いものが()ぜた。

「勝手なこと言わないで! あきらめられるなら最初から剣を持ったりしない!!」

 濁流さえ呑みこむほどの勢いで声を荒らげる。

 ダリウスも、お母様も、彼も、みんなして「剣を捨てろ」とか「憎むな」とか「諦めろ」とか……どうしてそんなカンタンに言えるの!?

 湧きあがる、ふくれあがる、うず巻く、ドス黒いきもち。

 止まらない……
 止まらない。
 止まらない!

 ──もう止められない!!


「魔族なんか根絶やしにしてやるんだからっ!!」


 背中に受けた急な衝撃に顔をゆがめる。さっきより乱暴に押さえつけられたうえに、今度は太ももの間に彼の足をはさまれて動きを完全に封じられてしまった。

「魔族を……根絶やしにする?」

 自分のおでこのあたりから降ってきた低い声はいつにも増して、感情がない。
 不気味なほどに。

「そ、そうよ!」
「ならば!」

 ほほのすぐ横を拳がかすめる。幹を殴りつける激しさに、手を痛めたのではないかと心配になった。
 おそるおそる見あげると……

 ゾクリ、と全身に怖気(おぞけ)が走る。

 拳の痛みに堪えているわけではない。
 稽古で見せる厳しさでもない。

 おだやかさは消え失せて視線だけで相手を射殺すような怒気をふくんでいた。そんな激情を秘めた眼とはうらはらに無感情な低音が残酷にささやく。幹に押さえつけた手首を強く絞めあげながら……