Tirnis side
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 その日は朝からずっと──灰色だった。


 ぶ厚く煙る幕におおわれた世界。
 濡れた大気が素肌にへばりついて心までじめじめしそうなほど、うっとうしい天気だった。

 夕方、雨はやんでいたので森へ行ってみると、いつもはささやくほど静かに流れる小川も轟々と唸り声を上げていた。

 底の見えない黒い水が自分の心を映しているようで……死霊の嘆きにも聞こえる濁流(だくりゅう)に耳をふさぎたくなった。

 だけど「悪天候も修行のうちだ」と、不良騎士はいつもどおりのスパルタぶり。
 私も「望むところだ!」と、いつもどおり胸をはってみせた。

 いつもどおり、のはずだった。

 光の強さ。
 風の向き。
 土の固さ。

 ほんの少し天候が変わるだけで、いつものように動けない。得意の連撃にもキレがない。

 水をふくんでやわらかくなった地面に何度も足をつかまれそうになりながら必死で剣をふるう私に対して、彼はさすがに戦い慣れていた。いつもの調子が出せないことも計算に入れたうえでの見事な力加減。

 ほんとうに、敵わない。

 でも、いつもとちがう状況だからこそスキが見つけられるのではないかと、戦略をめぐらせた。

 重ねた刃をはじいて高くジャンプする。
 次に狙うは──

 彼の右か
 左か
 正面から真っ向勝負か──

 足を踏みきり目標を討つ!

 獲物を捕らえた──と思った瞬間、音速は疾風にあえなくかき消された。

「左を狙ったな。なぜだ?」

 スパルタ教師が片手半剣を鞘に納める。それは実技から講義へ移行した合図だ。
 私は茂みの中から起きあがって答えた。

「右の死角が弱点なら狙ってたわ」

「何?」

 戦いで相手の弱点を狙うのは基本中の基本。視界が狭まる隻眼(せきがん)はとうぜん狙い目になる。

 だけど彼の場合は──