「良い眼をしていた。あれは中々に未来(さき)が楽しみな若人(わこうど)だ」

 何ものにもくじけぬ強い眼。
 希望に満ちた(けが)れのない眼。
 それゆえに、まだ世界の広さを知らぬ眼。

 いつか追い越されるかもしれない、という恐れと期待を(いだ)かせる者に出会ったのは久方ぶりだった。

 あれほどまでに血がたぎった真剣勝負も。

 大人びた外見をしていたが聞けばまだ10代という若さ。自分がそれくらいのころは、ひよっ子もいいところだった。

 全く末恐ろしい“才能”

──などと陳腐(ちんぷ)な言葉で表すのは()の青年に失礼だろう、とガンツは思い直した。青年の手は、剣を握りすぎてマメというマメがつぶれた己の手と、よく似ていた。

 ……そんな物思いにふける巨漢を見上げて、問いを投げかけた男は安堵の息を吐く。

「ま、こんくらいで挫折(ざせつ)してもらっちゃオレの見こみ違いになるからな」

「貴殿も随分、目を掛けているのだな」

「別にそんなんじゃないさ。──またな、ガンツ!」

 明るい笑い声が月影冴える窓の向こうに小さく消えていった。

「もう行ってしまうのか……(せわ)しない事だ」

 呆れたつぶやきをもらして、巨漢は再び闇を相手に孤独な闘いを繰り広げるのだった。