「相も変わらず貴殿の挨拶は過激だな」

 巨漢は奇襲を難なく迎え討ち、襲撃者に語りかけた。
 三重に合わさった剣の隙間から明朗な笑みがこぼれる。

「オマエ相手じゃヌルイくらいだろ、ガンツ!」

 輝くような存在感……それでいて、夜陰にまぎれて気配を絶つ能力でこの襲撃者に敵う者はいない。唯一自分と肩を並べられる戦友の登場に、ガンツは破顔した。

「貴殿、長期出張では無かったか」

 何気ない問いかけにそっと伏せられた、藍の眼。
 それが答えだと気づいて天を()きそうな頭を軽く下げた。

「済まぬ。守秘義務が有ったな」

「ちょっとヤボ用でよっただけさ。またすぐ国を出る」

「そうか。折角(せっかく)だから我輩と一戦交えぬか。貴殿には一勝分の借りが有る」

 相棒のツヴァイハンダーを構え直す。闇ばかり相手にするのは退屈していたのだろう。むき出しの闘志をぶつけてくる巨漢に、華麗な闘牛士のごとく緋色の外套(がいとう)をひらりとなびかせた。

「悪ィがソイツはまたの機会だ。オマエとやったら明日足腰立たなくなるぜ!」

「其れは残念」

 大剣とともに、あふれる闘志を身の内にしまいこむ。
 再戦の申し出を断った男は、この場に現れた目的を告げた。

「──リュートと戦ったんだって?」

嗚呼(ああ)。流石に耳が早い」

「どうだった?」

 考えこむように赤茶けた眼をゆっくりと閉じた。まぶたの裏に闘技場の一戦を映し出す。
 最も鮮明に浮かんだのは──

 風のごとく飄々(ひょうひょう)とした印象とはうらはらに純粋すぎるほどの熱を秘めた、翡翠。