前言撤回(ぜんげんてっかい)。君はちょっとくらい気にしたほうがいいよ」

「お前が気にしてないからな」
「!」

「それが不思議だ」

「『君のせい』で隊長になり損ねたのに?」

 わざとらしく意地悪ぶった物言い。似合わないなと呆れた視線を返せば、すぐに爽やかな笑みを向けた。

「自分の器くらい正しく理解してるよ。僕は隊長より補佐役が向いてるんだ。セージュ殿も腕はあるけど、ちょっと抜けてる人だったし」

「確かに」

 先代は引き継ぎのときに顔を合わせたが、騎士と思えないほどのほほんとした人だった。人が()い、といえば聞こえはいいが。

「隊長だからって、なんでもできる必要はないんじゃないかな。でないと副隊長()の役目がなくなってしまう。
 まあ、君が隊長ならそんな心配いらないけどね」

「俺は天然じゃない」

「そうじゃなくて……不器用だから」

 涼しげな眉をやや下げて気遣うような微笑み。

 あの手合い以来、何かと俺と隊員の間に入って仲を取り持とうとする。それが副隊長の務めだからか、性分なのか。

 ……まあ、両方か。

『グレイ隊長』という呼称をことさらに使うのも、俺に隊長の自覚を持たせるためか、隊員に認めさせるためか。

 ……やはり、両方か。

 その甲斐あって、風あたりは大分おだやかになっていた。ごく一部を除いて。

 正直、人と必要以上に関わるのは苦手だし、普通名詞で呼ばれるのも好きじゃない。慣れない呼称を聞くとむずがゆくなるが、彼の気遣いであるから言い出せないでいた。また、その気持ちが迷惑なわけでもなかった。

 彼が微笑むたび黙して受け容れる。そんな態度しかできない俺を「ほら、不器用じゃないか」と、愉快そうに笑った。