「オレはフェンネル=アキレア。一応ここの騎士だが、使いっぱしりで諸国を回ることが多い。平たく言やぁ放浪騎士(ほうろうきし)だな!」

「はあ……。フェンネル……殿、か」

 一応敬称をつけると、急にしかめ面になって首を二、三度横に振った。

「殿はいらねぇよ! 堅っ苦しいのは嫌いでね。オレはどこの団にも隊にも属してない。オマエとオレに上も下もないってことさ。敬語も必要ねぇ」

「俺も敬語は苦手だ。助かる」

 本人の了承を得たので遠慮なく普段どおりに話す。
 豪快な笑い声が響き渡った。

「オマエ、話わかるじゃん!
──噂は聞いてるぜ! いろいろとな」

「噂?」

「あのお姫さん、早速やらかしたろ」

 質問はさらりとスルー。逆に含み笑いで問いかけてきた。

「知っているのか」

「ああ、まあ『洗礼』みたいなもんさ。親衛隊員になるヤツはみんな経験してる」

「俺だけじゃないのか……」

 軽く眩暈(めまい)を感じて頭を抱える。
 フェンネルは「兵士にまで扮したのはオマエが初めてだ」とつけ加え、随分と楽しげに笑った。

「ティアはああ見えて結構強いぜ? このオレが剣を教えたからな」

「あんたが?」

「教えてほしいっつーから教えてみたら、そこらへんの兵士より筋が良くてね。あんまり強くなられちゃあ、こっちの商売あがったりだよなぁ?」

 言葉とは裏腹にかなり羽振りが良さそうな顔だが。

「じゃあ護る必要あるのか?」