脳裏を一瞬よぎったのは、叙任式の日に舞い散る花びらの中で目にした
──黄昏時の涙。

 強がりな彼女だから、きっと……

 宙に浮かせていた手を伸ばす。ずっと止まっていたせいか油をさしてないブリキ人形のように動きがぎこちなかったが、その手で濡れた頬を撫でた。

 哀しみの痕を隠すように。

 同じ手を今度は肩に回した。……冷たい。

 ずり落ちそうになっていたマントをそっと直して制服の上着を掛けてやる。間違って素肌に触れないよう、なるべく直視しないように。

 そのまま隣に座って、目覚めるのをもう少しだけ待つことにした。細い肩をしっかりと抱いて。

 彼女の体と心がこれ以上凍えてしまわないことを祈りながら──……

 手持ち無沙汰(ぶさた)に仰いだ空は、紫から藍に変わる中間を過ぎたところ。
 祈りに応えるように……

 一番星が輝いていた。

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