Lute side
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 気づけば騎士就任から一ヶ月経ち、ジャジャ馬姫との修行も半月が過ぎた。

 いったいいつまで続ける気なのか。約束した手前、途中で断ることもできなくて彼女の気が済むまでつき合うしかなかった。

 居並ぶ山脈は白い冬装束に身を包んで春の来訪を待っている、2の月の某日──

 薄暗い静寂を連れてくる、昼と夜の間。

 だが、ここだけは静寂と無縁だった。清廉な女神の森に似つかわしくない剣戟(けんげき)が今日も飛び交う。

「きゃあ!」

 華奢な体が川に落ちるギリギリのところで尻餅(しりもち)をついた。

「駄目だな」

 それを毎度のごとく冷酷に切り捨てる。

「いったぁ~! ……どうして読まれるんだろう。ランダムにくり出してるつもりなのに」

 打ちつけた場所をさすりながら、自慢の連撃がいとも簡単に防がれてしまうことに首を捻った。

「急所だけ狙っているだろう」

「え? うん……それじゃダメなの?」

「いつも急所にくるとわかれば、防ぎやすい」

「そ、そっか……」

 敵を確実に仕留めるために急所を狙うのは基本だが、馬鹿正直に狙いすぎると返って動きが読まれやすくなる。

「臨機応変に読まれない動きをしろ」

「か、カンタンに言うわね……」

「それができれば、連撃は防御にも応用できるぞ」

「防御? たとえば?」

「飛来する矢を防いだりな」

「なるほど。……でも、すごい難しそう……」

「できなければ死ぬだけだ」

 また一刀両断。彼女はグッと喉を詰まらせた。