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 遠くを見つめる切れ長の紫水晶(アメシスト)は、どこか憂いを忍ばせていた。もしかしたら同じ出来事を思い描いていたのかもしれない。

 それはもう昔の話。私にとっては。

 けれど少なくとも、エリーゼと大叔父様にとっては昔の話じゃない。一生まとわりついてくる問題だ。幸せな結婚を望むのならば、なおさら、いつまでも離宮に閉じこもることなどできないのだから。

「でも、大叔父様。貴族だって人間です。心があるわ。すべての貴族が利益だけを優先する人ばかりではないと思います」

 単なるなぐさめ……ではなくて。自分自身にも言い聞かせていた。

 しばらく遠い目をしていた大叔父様は、ふっ、といつもの優しいほほ笑みをたたえて

「そうですね。アーウィング殿下は誠実な方でしたし。エリーゼに、そのような方が現れることを祈るばかりです。
 もちろん……あなたにも」

 愛しい孫娘をいつくしむときとよく似た瞳を向けてくれた。

「……ありがとう、大叔父様」

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