Lute side
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 新月の夜。

 これ以上、黒く染まりようもないほどの黒天。
 地上の何もかもを跡形もなく(むさぼ)り尽くすような、真の闇。

 ──こんな夜は好きじゃない。

 自分の奥に潜んでいる闇が溶け出して、そのままドス黒い意識に引きずり込まれそうな気がする。

 こんな夜はただでさえ気が滅入るというのに……

「はあ~……」

 この重苦しい溜息は新月のせいではない。

 ティアニス王女と修行を始めて数日が経った。

 すっかり馴染んだいつもの森。
 昼は、憩(いこ)いの場として。
 夕方は、王女の稽古場として。

 そして夜は、俺自身の鍛錬の場として。

 闇の中にいると視覚以外の五感が研ぎ澄まされる。
 夜の森は、隻眼の俺が鍛錬するのにはうってつけだ。夕方の修行を終えた後はいつもここに残り、自身の腕を磨いていた。

 その鍛錬の小休止に、幹にもたれて腕を組み溜息ばかり零していた。

 原因は──ティアニス王女。

 何かあったわけではない。揉めたとか、怪我をさせたとか、およそ問題といえるものはなく修行を続けられていた。

 それこそが一番大問題なのだが。

 彼女は根性がありすぎる。

 真剣に怯んだのは最初だけで、容赦ない攻撃にも音を上げず、むしろ果敢に攻めてくる。早く切り上げようと怪我をしない程度に体力を奪ってやっても、日が暮れるギリギリまでしぶとく立ち上がってくる。