完敗だ。

 敵うとは思っていなかったけれど見事なまでの敗北だった。
 彼は、強すぎる。

「まいったわ……あなたホントに強いのね。さすがはフェンが認めただけはあるわ」

「あの男が?」

 いぶかしげな顔。疑問というより、不機嫌そう。

「あなたを親衛隊長に推したのはフェンだもん」

「そうだったのか」

「でなきゃ、レガートが隊長になるはずだったんだから」

「それは知っている」

「あ、そうなの?」

「よく通ったな。国王直属の発言権は(あなど)れん」

「それもあるけど……前の親衛隊長はフェンのお兄さんなの。でも剣はフェンが上だから『お前が薦めるなら』って」

 なにをかくそう前隊長セージュに引退を薦めたのも、ほかならぬフェンネルだった。

 セージュ自身も40歳を超えてから体力的なおとろえは感じていたようだ。

 まだ元気なうちに持っている技術を若者に受け継がせては?
 ……という弟の助言を素直に受けいれた。

 そして、現在は新人騎士の育成に力をそそいでいる。マジメで模範的な騎士だったセージュは、人にものを教えることが向いていたらしい。

 そういった人の悩みや心理・能力を見ぬく目もフェンネルはだれより優れていた。推薦が通ったのも国王直属だからというより、そっちの理由が大きいだろう。