しばらくすると、足音が真下に移動した。どうやらあっさり見つかったらしい。

 衣擦(きぬず)れに混じって葉が揺れる。
 登り始めたか。あのジャジャ馬姫なら木登りなど朝飯前だろうな。

 俺はまだ目を閉じたまま。

 一見無防備だが、こうして余計な視覚情報をシャットアウトしたほうが相手の動きはわかりやすい。隻眼ゆえに目に頼らず、大気を読み、風を読み、気配を読むことには慣れている。

 攻撃にいつでも対処できるよう神経を研ぎ澄ませた。

 いよいよ彼女の気配が間近に迫ってきた。
 さあ、どうでるか。

 …………

 ………………

 ……………………

 えーと、これは…………見られている?

 見られている。
 絶対見られている。
 思いっきり見られている。
 ガン見されている。
 目を閉じていてもハッキリわかるほど間近で視線を感じる。

 ──なんだなんだ? 俺の顔に何かついているのか? それとも、何か企んでいるのか?

 殺気どころかそれ以上動く気配も感じない。

 何をちんたらやっているんだ。こんなチャンスはまたとないぞ? せっかくタヌキ寝入りしてやっているのに、みすみす逃す気か。

 もしや寝込みを襲うなんて卑怯なことはしたくないと考えているのか。だとしたら甘いな。

 ……………………

 ……まだ見られている。

 あの大きな瞳で見つめられたら俺の顔に穴があいてしまうんじゃないだろうか。本当にあくわけはないが、それくらいじっと見られていた。
 これは流石にちょっと居たたまれない。

「何をじろじろ見ている」
「!?」

 こらえきれず(まぶた)を開けた。それが思いのほか驚かせたらしい。