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 ──どうしよう。ヒマだ。

 一つのところにじっとするのは苦手なのよね。戦術も練りつくしてすることがないし。いや、ここはまっ暗だからなにもできないんだけど。

 あまりにもヒマなものだから、つい歌を口ずさみそうになりあわてて押し殺す。

 危ない、危ない。

 居場所を自分で教えるようなものだ。子どものときは、それでよく鬼に見つかってしまった。

 もうどれくらい経っただろう。外の様子が見えないから時間の感覚がまるでわからない。

(ちゃんと捜してくれているのかな?)

 暗い所やせまい所は苦手ではないけれど、暗闇の中で閉じこもるのは思った以上に不安や迷いをかき立てるものらしい。

(かくれた場所が悪いのかな? 別の場所に移動したほうがいいかな?)

 いやいやいやいや。
 ダメだダメだっ。
 動いちゃダメだ!

 もたげた考えを消し去ろうと首をブンブンふった。
 下手に動いて彼と入れちがいになったら困るし、ダリウスに見つかっても厄介だ。ここはじっとガマンガマン。

 そんな葛藤(かっとう)を何度かくりかえした後──
 静寂という名の湖に小さな波紋。
 薄い壁を一枚へだてた向こう側で、かすかに扉の開く音がした。

 ──だれか来た!

 鼓動が早鐘のごとく鳴り響く。はやる心を抑えて、物音を立てないように壁に耳を貼りつけた。

 掃除に来た女官の可能性もあると考え、耳に全神経を注ぐ。
 ゆっくり近づいてくる人の足音。音の高さや大きさから、ヒールではなくて革靴っぽい。

 ──これはもしかして、もしかするかも!

 期待に胸の高鳴りは最高潮。剣の柄を強くにぎり直し、出ていくタイミングを見計らった。