「いいだろう。『挑発』に乗ってやる」

 二人は挑発をあっさり見抜かれたことに一瞬眉を上げたが、すぐに顔を見合わせて笑った。

「まず私からお願いしよう」

「一人ずつか」

 ベンが前に立ち、練習用の模造剣を抜いた。
 模造剣は刃を潰してあるから斬れることはない。造りや重さは真剣と同じで、木剣より実戦に近い手合いができる。
 だが……

「お前の得物(えもの)は弓じゃないか?」

「へえ、知ってたのか」

 意外そうに呟いた。

 俺とて自分を鍛えるためだけに鍛練場にいたわけではない。隊員がどんな武器を得意とし、どんな戦闘をするのか、隊長ならば知る必要がある。
 彼はいつも弓の鍛練を念入りにしていた。弓の腕ならば間違いなく親衛隊随一(ずいいち)だろう。

 実戦に近い手合いを望むなら互いの得意武器でやったほうがいい気がするが。
 内心の疑問に答えるようにベンは不敵に笑った。

「確かに私の得意武器は弓だ。けど、お前とやるなら剣のほうがいいだろ?」

「どちらでも構わん」

「ハンデをやられるのは不満かい? この条件で負けたら言い訳もできないからな」

「言い訳がいるのはお前だろう」

 やや垂れ目のベンが、かすかに目尻を吊り上げる。

「──口数が少ないわりに言うことは達者だな。そっちの武器はどうするんだ。腰の片手半剣か?」

「模造剣相手に真剣が使えるか」

 腰の剣を置いて壁にかかっている模造剣を手に取った。愛用のと似たものはあえて選ばず、彼と同じ形のものにした。