Lute side
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 休日が明けた第二・二曜、銀の日。
 ティアニス王女との賭けは五日目に入った。

 今日は休憩時間になっても王女は現れなかった。まさか、あのジャジャ馬姫が簡単に諦めたとは考えにくい。
 まあ、また追いかけられても森に逃げ込めば済む話だ。

 そんなわけで、鍛練場の(すみ)で暇を持て余していた。

 今は自主訓練の時間だが、平民出の騎士に対する風あたりはきつい。打ち解けるどころか手合わせしようという騎士もおらず、一人で鍛練するしかなかった。

 別に打ち解けたいと思っているわけではないが、一人の鍛練には限界がある。せめて練習相手になる者が一人か二人くらいは欲しいのが本音だ。
 そんなふうに思っていた矢先──

「よっ、隊長さん!」
「ちょっと失礼」

「お前たち……」

 声を掛けてきたのは、同じ制服に見覚えのある顔ぶれ。就任した日に難癖をつけてきた二人だ。
 赤髪の男がアルス、金茶の髪の男がベン、といったか。

 副隊長のレガートは一緒ではない。鍛練場をザッと見渡しても、あの不思議なオーラを持つ白銀の姿は見つけられなかった。

「手合わせしないか? 隊長さんの実力、オレたちに見せてくれよ!」

 あのときと同じく、先にアルスが威勢よく口を開いた。
 次にベンが落ち着いた口調で続ける。

「お前がそれ相応の力を持っていたら隊長として認めよう」

「俺を試す、ということか」

「まさか逃げる……わけないよな? でなきゃ、いつまで経っても隊員たちはあんたのこと認めないぜ!」

 赤髪の三白眼がニヤリと笑う。子供みたいにわかりやすいな。