God aspect
********************

「おまたせ」

 森の入口付近で立ち往生していた人物に、少女は声をかけた。
 長身のシルエットが小走りで近よってくる。
 それは少女の付き人という雰囲気ではない。高貴な出で立ちをした青年。
 安堵のため息をもらしながら優しく語りかけた。

「無事でよかった。急にいなくなるからビックリしたよ。こんなに真っ暗じゃ下手に捜しに行けないし」

「心配ないわ。……知ってるでしょ?」

「ああ。それでも心配するよ、俺は」

 とがめるような言葉だが口調は飽くまでもおだやかだ。

「ごめんなさい。かわいいねこを見かけて、つい……」

「猫ってそれ? 黒いからわからなかった」

 少女の胸もとに視線を落とすと、漆黒のドレスに保護色のように溶けこんでいた。

 黒い毛並みにゆっくり手を伸ばす。触れる直前でその毛を逆立てるように鋭く鳴いた。つれない態度に、青年は困惑顔で自分の長い髪をかきあげた。

「君には懐いてるな」

「ええ……どうしてかしら? 彼も逃げられていたわ」

「彼?」

 眉をひそめて問いかけると、吐息のようなささやきで