「ねこちゃん、どこ?」

 そっと草を掻き分け声を掛ける。茂みの向こうは音のない闇が広がるばかり。

 この状況で黒っぽい猫を見つけるのは困難では……と思ったが杞憂(きゆう)に終わった。

 戻ってきた少女の腕の中には、黒い毛むくじゃらがすっぽり収まってゴロゴロと喉を鳴らしている。本当に野良か。

「どうもありがとう」

「いや……」

 改めて礼を言う少女の顔は先ほどと同じ、澄ました顔。息をして(しゃべ)ってはいるが表情が全く動かないので、やはり人形のようだ。

「あなた……ティアニスおねえさまの騎士ね?」

 制服をちらりと流し見た。たったそれだけで妖しい色香が漂う。

「ああ」
(お姉様?)

 妹姫などいただろうか……ぼんやり思いながらうなずく。

「わたくしは、エリーゼよ」

「エリーゼ……姫」

「あなたは?」

「リュート=グレイだ」

「リュート、グレイ……わたくしの世界とおなじね」

(世界?)

 意味がわからない。小さな声なので聞き違えたか。

「またお会いしましょう。“灰色”の騎士さま」

 小さく頭を傾けた後、エリーゼという少女は森の出口のほうへ歩き出す。