Lute side
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「っくし!」

 自分のくしゃみで俺は目が覚めた。

(……?)

 左眼を開けているはずなのに視界が暗い。周囲を包む濃藍(こいあい)の闇に、点々とした小さな明かりだけが浮かんでいた。
 冷たい風が肌を刺し、葉擦れの音が耳をくすぐる。

(ああ、そうか)

 あのまま眠ってしまったんだな。
 闇の正体は、暗幕のように覆う葉陰で。点在する明かりは、葉陰に切り取られた星空の断片だった。そこに月の欠片は見あたらない。

(戻るか)

 枝からヒラリと飛び降りる。地に足をつけた瞬間、視界の端に捉えた──
 闇に浮かぶ、金の光。

(!? 魔──)

 金の眼をした黒い影が横切った!
──が、その影はかなり小さい。四本足でしなやかに地面に降り立つと茂みの中へ消えた。

「なんだ、猫か……」

 溜息を吐く。
 安心も束の間。猫が現れたのと同じ方向から物音がした。

 今度は明らかに猫より大きい──人の気配。

 警戒しながら暗闇に目を凝らすと、人型のシルエットが段々と浮かび上がってきた。
 いや、これは……

(人、なのか……?)