数年後、山手線で座っていたら、

何とまたあの男が隣に座ってきた。

 男は私の顔を覚えていないらしく、
 
 しばらくすると、
 
 私ではなく私とは反対側の隣に座っている女に

 あのときとまったく同じにように

 「その時計はフランスだすか」

と声をかけた。

 すると、
 その女は私と違って、

 すぐにっこりと笑って

「ええ、いい時計でしょ」

と答えた。

 すると男はあのときのように

 「すんばらしいだすなあ。
僕にも見せてくれだす」

と言うと、

 女はすぐ男にその時計をはずして渡した。

 男は

 「高いんだすよなあ。
僕も欲しいだすなあ」

とぶつぶつ呟きながら、
時計を嬉しそうに触りまくった。

 女はイヤな顔もせず、
堂々としていた。