ブラッティ・エンジェル

「セ〜メ〜!」
と、突然女の子の高い声が聞こえた。
 望の近くにいたユキゲが、ゲッというような顔をした。
 ユキゲがキョロキョロそわそわしていると、空からユキゲと同じ、けれども黒い翼の女の子が、セイメイの隣に来た。
「セイメイ!また仕事ですわ!」
長いツインテールを揺らしながら、彼女はセイメイに叫んだ。横にスリットの入ったスカートも、襟の高い上着も、丈夫で動きやすそうだった。
 彼女は、ふとサヨを見た。そして少し、嫌そうな顔をした。そして、ユキゲを見た瞬間、もっと嫌な顔をした。すごい顔だった。
 それに気づいたユキゲは、ギッとにらみ返した。
「なんで、あなたたちがいますの?」
子供のように高い声は、目に見えるくらい棘があった。
 ユキゲはムッとした。が、サヨはまるでわがままな子供に困る母親のような、苦い笑いを顔中にひろげた。
 ユキゲは、ずいっと女の子に近づいた。女の子は、何よとでもいうかのように、体を向けギッと睨んだ。
「会った早々、今のはないんじゃねぇ。」
「あなたたちには、あれで十分ですわ。」
彼女は白銀の髪を、指でいじっていた。
 そんな彼女を指でつまんで、セイメイは顔の前まで持ってきた。
「用事はナニ?仕事って言ってたけど。」
どうにかセイメイの指から逃れた彼女は、腕を上下に振りながら言った。
「そうですわ!早く行きますわよ!」
彼女はセイメイの手を、小さな手でぐいぐい引っ張る。
 セイメイは飛び立つ前に、サヨ方にニッコリ笑うと、
「マタネ。ボクのサヨチャン。」
と、何とも背筋が震えるようなことを言う。
 当然、サヨの体は鳥肌が立ち、身震いがした。
 ユキゲは二人が消えるまで、その方向を睨んでいた。