「来世なんか、本当に信じるの?」
星司に同じような事を質問したっけ?
 ヒナガは振り返ろうとしない。表情もなにも見えなくて、なにを考えているのかがわからなかった。
「わかりません」
まるで全てを諦めてしまったような声だった。サヨはぞっとした。
「どうして、あんな事言ってしまったのでしょう。はっきりと別れを告げるべきでした」
ヒナガがやっと振り返ったと思うと、その顔には笑みがあった。いつものような優しく上品な笑み。しかし、今のそれはどこまでも悲しくて切なくて、見ているこっちが泣いてしまう。ヒナガの頬が、少し濡れていた。
「どうして、そんな事言えるの?好きじゃないの?」
サヨは自分が言っていることが、自分自身にも跳ね返って来ているような気がした。
 自分に、こんな事言う資格があるの?自分のこともわかっていないくせに。
 頭の中で、また誰かが囁いた。
「今の私には、しなくてはいけないことがあるのです」
「星司を犠牲にしても?」
悲しい笑みを貼り付けたままのヒナガは、口を開こうとはしなかった。
 沈黙が部屋を満たす。
 お互いに言葉に詰まってしまった。
 星司の気持ちもヒナガの気持ちも、痛いくらいわかる。答えに困る気持ちもわかる。
 どうしていいのかわからないで、逃げだしたくて。でも、逃げ出せなくて。全て、なかったことにもしたくなくて。
 矛盾だらけの気持ち。自分がわからないって思って。
 いつまで経っても、前に進めないでいる。踏み出した先がどうなっているのか知るのが怖くて、過去ばかり振り返って、縛られていることにも気づかずにいて。それで、他人に心配をかけ、時には傷つけて。
 自分のしたいことがわからないと、耳をふさいだ。
 サヨは、あの頃の自分を思い出した。あの頃?あの頃なのかな?今は?迷いはないの?
 サヨはこの部屋にいるのが耐えられなくなって、なにも言わずに去っていった。