夜も遅いから今日のところは引き取ってもらった。



俺はまだ眠れそうにない…。



「兄さん、少し眠ったほうがいいですよ」

「お前と話さないで寝れるかよ。それにまだ病院に戻らなきゃ…」

「兄さんはここが嫌いでしょ?」

「そんなの近くで見てたお前がいちばんよくわかってんだろ…」

「僕はここが好きです。このまま兄さんに持ってかれるのは悔しいって言ってるんですよ」



俺と比べられることばっかり考えてたくせに何言ってんだよ…。



いつも俺の後ろにいたくせに…。



本当は内気で人みしりで…。



「劣等感とか、家元にかまってもらえる兄さんが憎いとか。たくさん思ってます」

「…………」

「だけど兄さんを超えることは僕の夢なんです。だから戻ってこないでほしいんですよね」

「桔梗…。お前だって嫌がってたじゃないか…」

「兄さんはね、教師のほうが合ってるよ。僕にはこれしかないんだから…」



その気持ちを尊重したら…俺は桔梗に甘えてるだけ?



ムリを言ってでも俺がこの家に戻るべきなんだろうか…。



「久しぶりに見たいです、兄さんの舞…」

「それは…ブランクってもんがあんだろ…?」

「いいじゃないですか、僕の方が上だって実感させてくれたって」



久しぶりに足を踏み入れた稽古場…。



懐かしい掛け軸…。



「なにしてるの遊和兄…」

「兄ちゃんはダメなヤツだって弟に見せつけてやんだよ」

「超カッコイイ…。なんか…お父さんみたい…」



俺ってそんなに似てるのかな…。