選手決めでリレーのアンカーに決まった俺は、皆の足を引っ張るまいと、夜走り込みをして体力を付けていた。

真夏の夜の湿った空気はとうに感じられず、着実に秋へ向かっているんだな、と走りながら思った。

たまに翔とも一緒に走ったりするこの河原は、通学路でもある。

毎日通っている道だけど、俺はこの河原が好きだ。


街灯に照らされる一本道。

向こうから見慣れた人影が現れた。

気付かない訳がない。

その大好きな人の姿。


「おーい、有貴ー!」


暗い中気付いてもらえるよう、全身を使って有貴に大きく手を振った。

そうすれば、向こうも気が付いたのか、こちらへと寄って来る。


「流羽もランニングしてんの?」


有貴が言った。

暗闇の中、その姿に妖しさが増され、普段の有貴よりも数段綺麗に見えた。


「おう!なんてったってアンカーだからな!皆の足は引っ張りたくないし」

「そっか。流羽のそういう努力家なところ、俺好きだよ」


緩やかな弧を描く、有貴の口。

前触れも無しに『好きだ』なんて言わないでほしい。

不意討ちは反則だ。

この胸の高鳴りを抑えるのは本当に大変なのだ。