少女は実を食らうと言うのか。

我らが魂を、
奪うと言うのか。


『…樹ヲ護ル事ガ我ラノ定メ。定メヲ犯ス者ハ、我ガ許サナイ…』

我は手を伸ばす。
少女の腕に触れるか触れないか、

「私は食べないわよ?」

その言葉に我の手も静止した。


「鬼さんが大切にしてるなら、それを横取りなんてしないわよ。お腹すいてないし。」

『………』

「…あの実は、奪われた鬼さんの心なんでしょ?食べたら心が戻るんじゃないかと思ったの。…心を、取り戻したくないの…?」

解らない。
何故、その必要があるのか。
我は定めに従うだけ。


『…必要ナイ…』

「本当にそうかしら?悲しい人ね…。でも…」

少女は再び我らが魂を見上げ、ぽつりと呟いた。


「…食べたら…、楽園を追放されてしまうのかしら。あのお話みたいに…。心を無くして苦しみも知らずにこの草原に居る鬼さんの方が、幸せなのかもしれないな…」

我は何も答えず、
少女をこの場に一人置き、村へと足を戻した。


少女は、旅の途中。

少女を迎えるのは、
我ではない別の者なのだから。


少女もまた、離れる我を気にも止めず、樹を見上げ続けている様だった。

魂が揺れる樹の下で。