(…どうして…王女の名が、空から降ってくるのだろう…)

はぁ…はぁ…と、
互いに息を弾ませて。

肩を上下させながら、
少年は必死に思考を巡らせた。


「…その声は、…リザね…」

「――…!?」

少女が其の声に反応を見せた事に、少年は目を見開き固まっていた。


少年は此の時、
初めて少女の名を知った。


王政の国、サザエル。

魔術の栄えた此の国で、
『リフィル』の名は王女ただ1人。


(…な、何だって…!?)

少女が誰であろうと良かった。
位の高い貴族の娘だろうと、
自分と同等の町外れの貧民であろうと…。

しかし、
相手が『王女』であろうとは考えも付かなかったのだ。



「…友達をやめる、なんて…言わないでね…?」

少女は小さな小さな声でそう言うと、今にも泣き出しそうに少年を見つめていた。

少年もまた、

「……えぇ…」

とだけ返すと、
少女の表情を見つめたまま、自分まで泣き出しそうになる事に耐えていた。