追憶 ―箱庭の境界―



「…勿論、覚えていますよ。鬼ごっこの開始の合図…。今、貴女に会う前の鐘で、丁度懐かしんでいたところです。」

青年の返答に、
王女が満足そうに微笑む。


「あの時、…どっちが鬼だったかしらね?」

「…鬼は、僕のままですよ。」


「ふふ、そうだったわね?次の鐘で、続きをしましょうか?私、結構体力が付いたのよ?」

悪戯っ子の様に笑う王女は、あの日のままだった。


「…それは、またの機会に。」

青年はそう答えた。
王女は残念そうに「そう?」と笑った。



(…僕は未だ、鬼のまま。貴女は「自由」を求めて逃げ続けて下さいね…)


(…未だ…貴女を捕まえる準備が出来ていない。僕が貴女を捕まえる日は、「新しい自由」をあげる日なのだから…)



長い月日は人を変える。

2人の思いに多少の擦れが生じている事に、青年は気付いていなかった。

王女は、青年を忘れた日は無いと言った。
更には鬼ごっこの話題が王女の口から出た事で、青年は「未だ王女は自由を求めている」のだと確信して疑わなかった。


青年は消えかけていた炎を、
其の胸に、再び燃やしていた。