『彼』の青春は、あの日に終わったのだ。


バカみたいに暑い夏の日に。


『彼』は思考を、頭を振って掻き消した。


あれは、思い出すものじゃない。


良い思い出しかないんだから、思い出したら悲しくなってしまう。


らしくないな。


『彼』はそれで一つ区切りを付け、再びパソコンの画面に顔を向けた。


その瞬間の事。


コンコンとノックの音が室内に響いた。


「どうぞ」


そう促すとカチャリとドアが開き「失礼します」と一人の女子が入室する。


「会長。缶蹴同好会への通達は完了です」


簡素に。事務的に告げる彼女は【朱猫 茜子(あかねこ あかねこ)】。


人の名前を言えた事じゃないがなかなかに訳の分からない名前だと思う。


絶対に両親は狙ったに違いない。