再び、靴底と地面が再開のキスを果たし、『彼女』は駆け抜ける。


漆黒の夜を梳(とか)したような腰まである長い黒髪をなびかせて。


名前の通りに。そして二つ名の通りに。


まるでその姿は美しき雷に他ならない。


艶やかな赤に染まったアルミ缶は、ただ静かにそこに佇み、誰かを待つようにそこにある。


それは美しき雷か。


はたまた違う誰かか。


それは今にわかること。


赤を基調とした、中央に瑞々しい桃がプリントされた不二家ネクターの空き缶を蹴るか、踏みつけた者こそが缶にとっての待ち人であり戦の勝利者なのだ。




そしてそれが自分であることを、『彼女』は振り抜いた右足で証明して見せた。