でも、今回は違う。

兄さんが、オレに直接電話をかけてきた。

いつもなら意味不明な、それこそ暗号みたいなメールが送られてくるのに。


……もしかして、急用か?




(いや、それはないな)


頭を掠めた考えは、一瞬にして消えた。

今までも兄さんから連絡が来たことはたくさんあった、けど。


急用だったことは、一度もなかった。


例えば、傘を忘れたとか。

例えば、帰ったら手洗いうがいしろよ、とか。


思い返せば、わざわざ連絡してくるようなことじゃないのは明白だ。


でも、そういえば。

一度だけ、「会議で使う書類を忘れた」とか言って焦って電話してきたことがあったな。


だけど、それは兄さんの勘違いだった。

兄さんは、会議の日にちを間違って認識していたらしい。

実際会議はその一週間後で、その日は大騒ぎしたにも関わらず、何事もなく幕を閉じた。


今となっては笑い話だが、あの日の兄さんの焦りっぷりは、尋常ではなかった。


そんなに重要な会議なら、日にち間違えないだろ、普通。

そんなツッコミも出来ないくらい、その日はオレも精神的に疲れ切っていた。




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