ボスッ。




「うわっ。ア、アサヒ?どうした?」


「バカ兄貴……。」




オレは差し出された新聞を通り越して、兄さんの首に抱きついていた。


タバコとお酒の臭いが残る髪。

いつもは嫌いな臭いなのに、その臭いが今日はどこか心地良く感じた。




「裸足で外に出てくるアサヒの方がバカだろう?」


的外れなことを言う兄さんに「ウッセーよ」と小さく言って、オレは抱きしめた腕に力を込めた。









言いたいことは、山のようにある。


でも、何か言おうとしたら、堪えている涙が溢れ出しそうで。


そんなことになったら、心配性の兄さんはきっと、狼狽えてしまうから。




だから今は……

今だけは。




兄さんが外泊しなかった安心を、思いっきり感じていたいとオレは思った。




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