強い風が吹いていた。

 それはまるで私達の存在をどこか遠くへ飛ばそうと何らかの不思議な力が働いているのではないだろうか、と思えるほどの強風だった。

 私は飛ばされそうになりながらも視線をそらす事なく章也くんを見つめていた。

それが今の私が出来る唯一の事だ。

「ごめんなさい」

 震える唇で紡いだ言葉は彼の傷ついた心には届かないだろう。

 彼の傷ついた瞳と震えた唇がそれを物語っていた。

 私はその傷の深さを感じる事が出来る。

 彼は一年前の私と同じだ。

 一年前の私は今の彼と同じ想いを背負い、彼と同じ傷を受けた。そして、今もその傷ついた想いを背負ったままだ。

 好きな人に受け入れてもらえない気持ち。

きっとその事実と苦しみに何の変わりはない。

 ただ一つ大きな違いがあるとしたら……章也くんはその気持ちを打ち明けることが出来たけれど、私の方は一生その気持ちを相手にぶつける事は出来ないという事だろう。

私が出来る事はその想いを心の中にそっとしまって、傷が癒えて風化するまで待ち続けるしかないのだ。

「ごめんね」