毎年の春頃、 お父さんが通ると泣き出す 木を右に曲がると、 隣に立っているアパートより 小さいオレンジ屋根の家が 顔を見せる。 私の家。 「あそこ」 私がそう言って指をさすと 男の子は やっぱりね、と わかっているような口調で 返してきた。 「なんでわかったの?」 「あれおとうさんだろ?」 もう一度、 家の方を見ると エプロンをしたお父さんが 手をふっていた。 誰からも 私に手をふっている、と 分かるふりかただ。