人混みの中、彼の声だけはしっかり私の耳に飛び込んできた。 距離だってそんなに近いわけじゃない。 だけど、彼の声は、まっすぐに届いた気がしたんだ。 「…探した」 「…あの、」 「会いたかった」 「え?」 初対面なのに、彼はそう呟いて私にどんどん近づいてくる。 なんだか急に怖くなって、後ずさると、壁。 左右も人で完全に塞がれている。 「奈那、」 「ぅ…わ!」 とうとう目の前まで来た彼に、なぜだか優しく抱きしめられた。 _