今日も平和でのどかな1日が始まろうとしていた。
さっきまで日曜日の動物園程にうるさかった教室の中も、静かになりつつあった。
「…あと20秒……」
そんな微妙な静けさの中で、あたしは1人、カウントダウンを始める。
あたしたちのクラスの担任、ゴリラもとい、ハシモト先生は、毎日決まってチャイムの30秒後に教室に入る。
もしその間に自分の席に着いていない人がいたとすれば、その人は確実に後からゴリラの餌食になってしまうだろう。
そして今日は1人、まだ席に着いていない人がいた。
「おいまたアスカいないぜー?」
「マジだ!
っつかあいつ毎朝ナツキに会ってんだろ?」
「らしいな。
噂じゃもうヤっちゃったとか?!」
「マジ?!
いいなぁー!」
残り15秒。
クラスの男子から聞こえるアスカの噂が、あたしの胸にチクリと刺さった。