足がもつれ、階段に何度か引っ掛かった。
「ッ…
こんなに走らせやがって……。」
あと少し。
灰色の錆の目立つドアが見えた。
ドアの前で止まり、開けようと汗の滲む手をドアノブにかけた。
その時だった。
「何でよっ!
このあたしが好きだって言ってるのよ?!
ふざけないで!」
ドア越に聞こえたその叫びは間違いない、ナツキだった。
「ごめん…
でも俺には本当に好きな奴がいて…」
続いて聞こえたのはアスカの声だった。
おい…ちょっと待て…
「本当に好きな奴…?」
「誰よ!」
俺の心の声を代弁するようにナツキが叫んだ。
「君には、関係ない…。」
アスカが小さく、冷たく囁く声が聞こえた。
「っ…
そんな、そんなことが通用する訳ないでしょ!
…あたしとの約束、忘れたとは言わせないわ…」
約束…?
「とにかく!
あたしは別れる気はないから!」
足音が徐々にこちらに近付いてくる。
「うぉっと…」
俺は急いで脇にずれる。
その時開いたドアの陰になり、俺は見つからないですんだ。