ゆっくりと、鍵盤の上で指を滑らす。 ‘聞こえる’って何だろう? ‘音’って何だろう? 本当にそんなもの、この世に存在しているのだろうか。 西日が僕を照らしている。 僕はひたすらピアノを弾く。 音なんて、わからない。 「?」 誰かがピアノの横に来た。 さっきの彼女が、戻ってきたらしい。 「この曲、弾ける?」 彼女はそう言って、また楽譜を渡してきた。 エルガー 愛の挨拶 昔、弾いたことはある。 ただ、この楽譜は……。