千代子が、あそこにいた事。
俺はただ、“親の都合”だと思っていた。


現に俺もそうやし…。


あの後、S女と一緒に千代子の元に行ったけど、もう、千代子の姿は無かった。
S女は気を使わせてくれたのか、その場は帰るという形になった。


すぐに、千代子に電話をしようと思った。
…でも、何故か…今日、日曜日まで…話す気にはなれなかった。


俺は決意を決めて、玄関のドアを開けた。
待ち合わせのカフェ。千代子が暗い顔をして座っていた。


ただの気のせいか、単なる悩み事か、それとも、あの日の事か…。
出来れば、あの日の事では無いと願い、声をかけた。


「なんや?ぶっさいくな顔して」


「え…いえ……」


そう言って顔ごと視線を逸らし、また、戻す。
何だか挙動不審な千代子の顔を見て、胸がチクリと痛くなった。


嫌な予感が、当たった気がした。


「…千代子」


「はいっ?」


「頼みがあるんやけど」


俺がそう言うと、千代子は一時停止をし、しばらくして口を開いた。


「はいっ!なんなりと!」


「俺の親父に会ってくれへんか?」


千代子は、頭にハテナマークを飛ばした様な顔をし、少し首を捻らせた。


「彼女として、紹介したいねん」


コホン…と、ひとつだけ咳をして、言った。
そう言うと、みるみるうちに、千代子の瞳はキラキラと輝いた。


「はいっ!喜んで!」


笑顔で答える千代子。
ホッと胸を撫で下ろす。


さっきの嫌な予感は、外れていてほしいと、願った。